社員の「やってみたい」を尊重する姿勢と「変わり続ける力」が、57年間にわたる成長をもたらした
長野県内で30店舗の酒類ディスカウントストアを展開中の「酒のスーパータカぎ」。その経営姿勢はきわめて堅実であると同時に、社員の自主性を最大限尊重し、「各店の店長は一国一城の主であり、店舗は自分自身のステージ。会社の指示ではなく、自身の判断と裁量を優先して店舗を運営すべし!」との方針が貫かれている。そのユニークな経営姿勢はどこから生まれ、今後どうなっていくのか? 髙木俊行社長に聞いた。
――本日はどうぞよろしくお願いいたします。まず初めに、御社が1967年5月に「高木酒店」として開業して以来、57年以上にわたって成長し続けることができた要因はどこにあるとお考えですか?
髙木社長:時代の変化に対応しながら「変わり続ける力」を蓄え続けたことが、弊社が半世紀以上にわたって生き延び、そして成長し続けることができた最大の要因だと考えております。
どの業種でもそうかもしれませんが、酒販業というのは「ゴール」がない業界です。何かを達成し、成功すれば、それが企業としてのゴールになるわけではないのです。
例えば1984 年に店舗名称を「酒のスーパータカぎ」に改め、酒類のディスカウント販売を始めた頃は時代の波に乗り、その後大きく成長することができました。しかし2003年9月に酒類販売免許が自由化されて以降、お酒は「どこでも買えるモノ」へと変わっています。
そういった変化のなかで過去のやり方をただ踏襲していただけでは、企業としての成長はありえなかったでしょう。しかし弊社は30年前から「焼酎の量り売り」という新機軸の酒販スタイルを開始し、近年では「日本酒を使ったアイスクリームのFC販売」や「惣菜専門店の誘致」「リサイクル事業」など、さまざまな打ち手によって自己を変化させ続けてきました。
そのように、ある意味「常に発展途上である」ということが、逆に弊社の強みであると認識しています。
――そして「酒のスーパータカぎ」は売り場のスタイルや商品構成が、店舗によって「まったく違う」と言っても良いぐらい異なっています。あの経営スタイルは、どのような考えに基づいているのでしょうか?
髙木社長:当社は、社員全員が「一国一城の主である」という感覚で働いております。つまり各店舗の運営はほぼすべて店長に任せており、売り場づくりや商品の発注など、ほぼすべてを各店長が自身の裁量で行っているのです。
例えばワイン好きな店長がいる店舗は、ワインの品揃えが圧倒的に豊富だったりしますし、ご年配の方が多い地域の店舗は、店長の判断で「優しい印象を与える店構え」にしたりもしています。
――……ざっくり言ってしまうと「各店舗の経営は、各店長に丸投げしている」ということでしょうか?
髙木社長:もちろんそうではありません(笑)。しかし社員の自主性や、「やってみたい!」という気持ちを最大限尊重している企業であることは確かです。会社から「◯◯という方法で、××を□□せよ」との指示を受けて、そのとおりに行う――という仕事より、すべての社員が、それぞれ必ず持っている個性や強みを最大限発揮することで売上アップを図る――というほうが、働く人間としては絶対に楽しいですし、意欲的になれるじゃないですか?
そしてビジネスとして冷静に見た場合でも、社員それぞれが個性を発揮しつつ、その地域ならではの特性やニーズもリアルタイムに把握しながら酒販業を展開するほうが、売上も利益も、マニュアルで縛るよりも最大化できるはずなのです。
――確かに、本社が机上で画一的に考えた「売れる売り場、売れる商品」より、その地域の実情を知る各店長が判断して創った売り場と商品のほうが、お客さまには刺さりそうですね?
髙木社長:私は常々、各店長にはこう言っています。「あなたが任されている店舗は『酒のスーパータカぎ』ではなく、『酒のスーパー◯◯(店長の名前)』なんです。だから思う存分、『自分としてはこうしたい』というやり方でお店を創ってください」と。そういった積み重ねの結果として、おかげさまで今、自由で意欲的な社風が出来上がっているのだと思っています。
――そういった社風を創り上げてきた髙木社長が経営の“軸”としているのは何でしょうか?
髙木社長:これは弊社のスローガンでもあるのですが、「五縁を大切にし、己を磨こう」というのが経営の軸です。
五縁というのは「お客様・問屋様・メーカー様・社員・会社」という5つの関係を結ぶものです。このうちのどれか一つでも欠けてしまえば、商売というものは成り立ちません。誰かが誰かを邪険に扱ってしまうと、結局は、いつかそれが自分のところへ返ってきます。だからこそお互いを尊重して調和し合うことが、商活動においてはもっとも大切であると考えています。
――現在「酒のスーパータカぎ」は、長野県内の酒販店としてはトップシェアを誇る企業になっています。5年後、あるいは10年後の展望を教えてください。
髙木社長:基本的な部分としては「堅実経営」を今以上に貫いたうえで、どこにでもある商品ではなく「お客さまの生活を豊かに楽しくする、価値ある商品」をご提供していくことが弊社の使命であると思っています。そして現在は30店舗、売上高80億円ですが、10年後には「40店舗、売上高100億円」を達成したいと考えています。
本当は1人で黙々と行う仕事に就きたかった。でもこの会社と「小売業」が、私を変えた。
社員の自主性をとことん尊重し、各店の店長は「半ば経営者」といったニュアンスで店舗を運営することになるのが「酒のスーパータカぎ」という会社。ではそこで実際に働いている「店長」とはどんな人で、日々どのような仕事をしているのだろうか? 同社の旗艦店である松本店で店長を務める長井省吾さんに聞いてみた。
――長井店長は、2024年2月に行われた「サッポロ生ビール黒ラベル ディスプレイコンテスト」に参加し、見事グランプリを受賞したそうですが?
長井店長:はい。メーカーさんや店舗スタッフの力も借りながら1日がかりでディスプレイを仕上げたのですが、自分自身が大いに納得できた陳列内容を高く評価していただけたことを、光栄に感じています。
――ちなみにサッポロビール株式会社からの賞金に加え、「酒のスーパータカぎ」からも、何か報奨のようなものはあったのでしょうか?
長井店長:会社からは「ギフト券」をいただきました。もちろん、私1人の力で獲得したグランプリでは決してないため、店舗のスタッフ全員で山分けしましたが(笑)。
――そんな長井店長が「酒のスーパータカぎ」に入社された理由を教えてください。
長井店長:私が入社したのは今から17年前、2007年のことでしたが、実は積極的にこの会社を選んだわけではありません。恥ずかしながら「なんとなく応募し、たまたま運良く採用された」というのが本当のところです。しかも当時の私は完全に勘違いをしていて、この仕事のことを「酒販会社の配送ドライバー職」だと思い込んでいたのです。
――しかしフタを開けてみたら「販売職」だったと!
長井店長:はい。もちろん勘違いしていた私が悪いのですが、当時は暗澹たる気持ちになりました。なぜならば、自分は本気で「配送ドライバー」になりたかったからです。
――今では酒のスーパータカぎの旗艦店である松本店の店長を任され、大活躍している長井店長が「実は配送ドライバー志望だった」というのは意外ですが?
長井店長:就活をしていた当時、サービス業や小売業というのは、自分にとっては「一番やりたくない仕事」だったんです。とにかく1人で黙々と動くのが好きなタイプで、周囲に気を使うことも大の苦手でしたから。そのため、当時の自分は「配送ドライバーなら『1人でやれる仕事』という意味で、自分に向いてるかな……?」と思って応募したのですが……。
――そうしたら、いきなり店舗でお客さまの前に立つことになったと(笑)。そんな新人時代を経て、入社1年後には安茂里駅前店の店長となり、その後も店長職として16年間、小売業の最前線に立ち続けています。衝撃の入社(笑)から17年がたった今、小売業という仕事について、あるいは「酒のスーパータカぎ」の社員であることについて、率直にどう感じていますか?
長井店長:結論から申し上げると、この仕事に就いて本当に良かったと思っています。就活をしていた頃の自分は「1人でいるのが好き」「周囲に気を使うのは苦手」と思い込んでいました。しかしこの仕事を通してさまざまな人々と触れ合ったことで、「自分は意外とそうでもない」ということに気づくことができたのです。もちろん「仕事を通じて成長し、克服できた」という部分も大ですが。
そして「小売業だけは無理! 配送ドライバーになりたい!」と本気で思っていた自分ですが、小売業というのは、自分がやった仕事の結果が、良くも悪くもそのまま即座に「売上」や「お客さまの反応」など、目に見える形で現れる仕事です。だからこそやりがいが感じられますし、自分が考え抜いて商品を仕入れ、そして自分で作った売り場の前でお客さまが足を止め、じっくりと眺めたうえでご購入いただけたときの喜びや、「よっしゃ!」という感覚は、他の業種では得にくいものではないでしょうか。もちろん、若手店長だった時代は数多くの失敗もしでかしましたが。
――例えばどんな失敗を?
長井店長:ご存じのとおり弊社店舗の売り場づくりや仕入れの内容は、各店の店長が自身の裁量によって決めています。そして私も日々、自身のアンテナに基づいて仕入れる品やそのボリュームなどを決めているのですが、若手店長だったあるとき、私としては「ジンが来るに違いない」とピンときて、各種のジンを大量に発注し、専用の売り場も完璧に作ったつもりでいました。
しかし結果として私が仕入れたジンはまったく売れず、大量に売れ残ってしまいました。
もちろん弊社ではそんなとき、他店の店長たちが快く販売(在庫処分)に協力してくれる風土があるため、時間はかかりましたが全量を売り切ることができ、会社に迷惑をかける結果にはなりませんでした。しかしそれはそれとして、あの失敗のことは今でも忘れることができません。
――当時の仕入れと売り場づくりの、何がいけなかったのでしょうか?
長井店長:今にして思えば「お客さまを見ていなかった」のだと思います。自分のアンテナやアイデアだけに固執し、肝心の「ジンというのはどういう商品なのか? そしてそれをどのように飲むことが、お客さまの日々の幸福につながるのか?」というご説明が、まったくできていない売り場でした。それでは、お客さまは買っていただけませんよね」
――そういった失敗も経て、“今”の長井さんはどんな店長に成長したと、ご自身ではお考えですか?
長井店長:お客さまへの見せ方を含め、「商品自体を売る自信」は確実にあります。そして……大人になりましたね。就活をしていた頃の自分は、お恥ずかしい話ですが、本当に何も考えていなかった。「人に気を使う仕事でさえなければ何でもいい」ぐらいしか考えていなかったんです。
しかし17年たった今では、お客さまを含む「さまざまな人と触れ合う喜び」を理解できたつもりですし、自身の裁量で店舗を経営し、そして結果を出すことの楽しさも知ることができました。まぁ「後輩の指導」だけは今でもちょっと苦手なのですが(笑)、もしも「仕事とは何か?」と問われたなら、「自分を成長させるものです」と答えられるぐらいにはなれたと思っています。
17年前の自分が今の自分を見たら、ちょっとびっくりするのではないでしょうか。
――お二方のインタビューを終えて、社会人にとって仕事とは、もちろん金銭を稼ぎ、自身の生活を成り立たせるためのものではある。だが同時に仕事とは、人を成長させ、金銭には代えることができない「社会の中で生きる喜び」を、人にもたらすものでもある。長井店長は、まさに仕事によって“それ”を獲得することに成功した人だ。「自分の個性」を大切にしながら社会人生活を送りたいと考える就活生にとって、酒のスーパータカぎは絶対に注目すべき企業のひとつだ。
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