株式会社木暮旅館(以下、ホテル木暮)は、織田信長が安土城を築城した1576年に創業した、渋川伊香保の超老舗旅館。保守的、レトロなど「老舗」という言葉のイメージとは裏腹に、電子回路設計エンジニアだった木暮啓春氏がオーナーとして加わって以来、「サービス業の新たな常識」を創出すべく、さまざまな分野で新たな構想を次々と実践に移しているベンチャースピリットあふれる企業です。そんなホテル木暮の木暮啓春オーナーに、学生たちが抱える「よくある就活のお悩み」をぶつけてみました。果たして異業種出身の木暮オーナー(以下、敬称略)から発せられた意外な答えとは?
Q1 就職活動をするにあたって「最初に行うべきこと」とは
――本日はどうぞよろしくお願いいたします! さっそくですが、就職活動を始めるにあたって「最初に行うべきこと」を教えてください。
木暮:世の中には「就活の教科書」的な情報はすでにたくさん存在しています。そのため私からは「教科書的ではない視点」にて、お答えしたいと思います。
就活において最初に行なうべきことはシンプルです。それは「自分は何をするとワクワクするのか?」ということを知っておくことです。もしもすでに知っているのであれば、「ではなぜ、自分はそれをするとワクワクするのだろうか?」という段階まで掘り下げてみてください。
「自分は何をするとワクワクするのか?」ということがわかったなら、次は「自分自身がワクワクしながら行えることが、自分以外の人が求めていることと、どうつながるだろうか?」と考えてみます。そして、そのように考えていった先に見えてきた職種は、本当にこの世に存在しているのだろうか――というニュアンスで仕事を探していけば、入社後に「就活で失敗した……」と感じてしまう悲劇はなくなるはずです。
――木暮さんご自身は就活生時代、どのようなことにワクワクするタイプだったのですか?
木暮:自分自身は本当にダメな就活生でしたので、「自己分析も何もしていない」みたいなタイプでした(笑)ので、ワクワクとか考えていませんでした。「あなたの就活の軸は何ですか?」という質問に対しても「私の軸は誰よりも早く、多くの会社から内定をもらい、短い期間で就活を終わりにすることです。以上!」というのが本音でしたから。
まるで学校のテストを受けるかのようなノリだったんですね。就活に使う時間を早く終わりにして、遊びに行きたいとか、そんなことしか考えていませんでした。
実際そのとおりになったんですよ。誰よりも早く、多くの会社から内定をもらって、就活を終えることができましたからね。内定承諾した会社では、子どもの頃からイメージしていたエンジニアとして働けると思っていました。入社するまでは「私の就活は計画通り完璧だった!」なんて余裕を持っていたのですが――いざ入社してみたら「……こんなはずじゃなかった」という現実に直面しました。
これでは人生を後悔すると気付き、入社から半年以内にして人生初の転職を経験。その後は15年ほど日系企業ならびに外資系企業でエンジニア職をまっとうできましたので、就活の入り口こそ失敗でしたが、それがあったからこそ海外で働くという貴重な経験ができましたので、長い目で見れば、決して失敗ではなかったのかもしれません。
――そんな木暮さんが今、ワクワクしていることとは何でしょうか?
木暮:今の私にとってのワクワクする行為とは、「計画すること」ですね。なぜかというと、“悪いこと”を計画する人ってほぼいないじゃないですか? 「計画する」とは、「物事を今より良い状態にするにはどうしたらいいだろうか?」などの“前向きなこと”をイメージする時間ですよね? だからこそ「計画すること」が、今の自分にとっては一番楽しいと感じられるんです。
そんな私も若い頃は「欲しいモノを買う」などを目標にしていました。それって確かにモノを手に入れた瞬間や3日間、あるいは1週間ぐらいは、達成感と多幸感に満ちあふれた素晴らしい状態になるんですよ。でもその期間が終わってしまうと、満足感は急激に下がっていくんですね。で、また次に買うべきモノを探したり、何かしら楽しめることを見つけなくちゃ――と考えるようになります。つまりモノを目標にすることで得られる楽しさって、賞味期限がすごく短いと思うんです。
しかし「計画する=良いことを考え続ける」ことがもたらす楽しさは、決して短期間で賞味期限を迎えてしまう類のものではありません。永久ではないのかもしれませんが、かなりの長期にわたってワクワクし続けることができます。これこそが、その人の人生を豊かなものにするための大きなポイントだと言っていいでしょう。
Q2 「就活の軸」とは、そもそもどう決めればいいのか
――「就活の軸を決めよ」と言われますが、どうやって決めたらいいのか、正直よくわからないのですが?
木暮:先ほども申し上げましたが、まずは自分が楽しめること、ワクワクすることって何なのかな? と考えてみるのがいいと思いますが、ちなみにMさんは今、どんなことをすると「楽しい!」と感じますか?
――人と会話することは、非常に楽しいと感じています。理工学部で建築を学んでいるのですが、課題をやるにしても1人でじっと考えるより、誰かと話しながら行なうグループワークのほうを楽しいと感じていますね。
木暮:そんなMさんの“楽しい”が、何か人のためになるような仕事はないか――と考えてみると、Mさんの“軸”は絞られてくるかもしれません。建築を学ばれているということは、将来的にはデザインや設計の方面をお考えですか?
――デザイン系の職種に就きたいと思っていますが、果たして自分に著名建築家ほどのモノが作れるだろうか……みたいな不安もあり、どこか敬遠してしまう部分があります。
木暮:逆質問になってしまい恐縮ですが、Mさんのなかで「働く」とは、どういう意味合いを持っていますか? 何のために働くのでしょう? 生きていけるのであれば、働く必要って実はないんですよね。「学校を卒業したら必ず働かなければならない」という決まりもありませんし。でも学校を卒業すると、皆さんなんとなく働きますよね。「なんで働くの?」というシンプルな質問に、Mさんならどう答えますか?
――ええと……「お金さえもらえれば」というより、自分の夢やキャリアをしっかり築いていきたいとは思っています。自分がやりたいことをやり、その結果として充実した人生を歩んでいきたいというか……。
木暮:今Mさんから出てきたキーワードをどんどん分解していくと、「Mさんがやるべきこと」は自ずと見えてくるような気がいたします。
例えば「お金ではない」という意味の言葉が出ましたが、もしもそうであるならば、例えばお給料の多寡ではなく、別の要素から会社を絞っていくこともできます。そしてご自身の夢やキャリアが実現できそうな会社がいいということであれば、「そもそも自分の夢って何だろう?」「自分にとってのキャリアとは?」と深掘りしていくなかで、さらにいろいろなキーワードが出てくることでしょう。
そのように出てきたキーワードを、きれいに文章化する必要はありませんので、例えばスマホに1つずつメモしていく。すると、その“点”の集合体がいつの間にか“線”になり、そして“面”になっていくはずです。そうなると「自分はこういう仕事がしたいのかもしれない」「こういった方面で就活してみようかな?」という“灯り”が見えてくると思うのですが、どうでしょう?
――おっしゃるとおりかもしれません! このインタビューが終わったらすぐさま自分なりのキーワードを探そうかなというぐらい(笑)、就活の解像度が上がってきました!
木暮:就活って、どうしてもいろいろ難しいことを考えてしまうものだと思います。でも私はもっと自然体でいいと思うんです。もちろん人によっていろいろ事情はあると思いますが、すべての働く人に思ってもらいたいのは、もっとシンプルに「働くことによって脳内に“幸せホルモン”がバンバン分泌されて、自分の脳みそが『あぁ、気持ちいい!』と感じる仕事って、自分にとっては何だろうか?」と考えてみることです。そうすると、いろいろなアイデアや方向性が出てくるはずなんです。
――「就活の軸」というのは端的な文章で明確に表さなければいけないと思っていましたし、就活自体もお固いモノだと思っていました。でも“自然体”でいいんですね?
木暮:私はいいと思います。面接では「あなたの就活の軸は何ですか?」とか聞かれると思いますが、小難しいことを答えなくてもいいんですよ。「私の脳みそが気持ちいいと思える仕事がコレだったんです!」とか言っちゃっても、たぶんOKだと思います。就活におけるNG行為とは他社さんをディスることぐらいで、あとは何でもアリですよ。あくまでも自分の気持ちに素直に、仮に言語化できないことがあったとしても、「バーン!」「ドッカーン!」などの擬音語を使ってみたりしてね。そういうのも人間味があっていいと私は思いますし変に優等生ぶらないほうがいいと思いますよ。
Q3 複数の企業から一つに絞るとき、何をどう基準にすればいいのか
――複数の企業から内定が出たあと「一つに絞る」という段階になったとしたら、どのような基準や指針で決めたらいいのでしょうか?
木暮:当然ながら、その会社に対してどんな想いがあるかというのも大切ですが、会社選びというのは、大きく分けて「変えられない要素」「変えていける要素」「変わっていってしまう要素」という3要素に分解できると思っています。
そのなかでもっともやってほしくないのは、「変わっていってしまう要素」に重点を置いてしまうことです。例えば「勤務地が実家から通える場所だった」とか、「最初の配属職種が、とりあえず希望したものだった」などを第一優先にして会社選びを行ってしまうと、失敗する確率は上がります。
実家から通えるのはいいですが、もしもその会社が移転したり、自分が転勤することになったら、その会社に決めた理由はあっという間に消えてしまいます。そしてそれらは、残念ながら自分ではコントロールできない領域です。それゆえ、「変わっていってしまう要素」を第一優先にして決めるのはよろしくないのです。
残る2つのうち「変えられない要素」というのは、例えばその企業の理念であったり、経営者の人柄などです。これについては他人やいち社員が変えられるものではないため、「その理念や人柄などにどれだけ共感できるか?」ということを考えてみれば良いでしょう。
そして「変えていける要素」というのはいろいろありますが、それこそお給料も、変えていけるものの一つだと思っています。仮に初任給が安かったとしても、頑張って頑張って、結果を出し続ける社員のお給料を上げない会社は、基本的にはこの世にありません。その上げ幅が納得のいくものかどうかは別問題ですが。
そういった「自分自身の意思や努力で変えていける要素」に対して、どれだけの良い見通しが持てるだろうか――ということを判断しながら、最終的に「自分が入社する会社」を決めればいいと思います。
――木暮さんがおっしゃることはすべて「なるほど!」という感じで猛烈に納得できるのですが、私自身は恥ずかしながら「就きたい職業」や「やりたいこと」は何も決まっていないまま、就活をしている状況です。
もしも木暮さんが就活生時代に戻ったとしたら、「この職業に就きたいから」という理由で会社を選びますか? それとも「働き方」、つまり土日が休みだからとか、福利厚生がしっかりしているなどの理由に基づいて会社を選びますか?
木暮:難しい質問ですね! と言いますのも、私は小学校の低学年ぐらいから電気関係の仕事に就きたいと思っていて、大学生の頃には電子回路のエンジニアとして働こうと決めていました。そのため、人生の中で「就きたい仕事がない」という状態を経験したことがないのですが……でも、そういう人って多いのかな?
――そういう同級生も多いと感じています。
木暮:なるほど、わかりました。これは私がよくやる思考法のひとつなのですが、なかなか答えが出せない問題にぶつかったとき、出そうとしている答えの“真逆”を考えてみるというやり方があります。例えば「就きたい仕事がわからない」という問題に対しては、「逆に、自分が絶対に就きたくない職業って何だろう?」と考えてみるんです。それを列挙していくと「とりあえずは、それ以外のことをやればいい」ということになりますよね? まずはそこから始めるのもいいかもしれません。
自分が好きなこと、向いていると思うことと同じぐらい、「嫌いなこと」もきっとあるはずです。そういった「自分に合っていない仕事」についてじっくり考えていくと、消去法で残った仕事は、少なくとも「自分に合うかもしれない仕事の業種群」になります。その群の中から、さらに何か興味が持てる部分について調べていくと、何らかの「就きたい職種」が見えてくる可能性は高いと思います。
Q4 働くうえでの「モチベーション」はどう上げるか
――働くというのは楽しいことであると同時に、「大変なこと」でもあると感じています。そういった大変なことを遂行するうえでのモチベーションは、木暮さんの場合は何でしょうか?
木暮:皆さんにときどき思い出してほしいのは、全人類にとって共通な「1日24時間」という時間を、自分はどれだけ有効に使えているだろうか? ということです。
私の場合は1日を3分割して考えています。ざっくりカウントしますと8時間は「睡眠のための時間」であり、次の8時間は「職場にいる時間」です。そして残る8時間は「自宅にいる時間」ということになります。
このうち睡眠時間と自宅にいる時間は「自分のための時間」なわけですが、残る8時間である「職場にいる時間」を、私の場合は「自分のためではなく、人のために使う時間」であると意識しています。自分以外の誰かのために使う時間だと思うと、自ずとモチベーションは上がるんですよね。「働くことの意味」が変わってくるからです。
――恥ずかしながら私はこれまで「お金のため」あるいは「自身のスキルアップのため」としてしか、仕事(アルバイト)をしていなかったかもしれません……。
木暮:いえいえ! お金はもちろん大切ですし、スキルアップだって大切なことですよ。自身のスキルが上がれば、その分だけ、誰かを確実に幸せにすることができるはずですから。これからもご自身のスキルをどんどん向上させ、周囲の人をどんどん幸せにしてください!
Q5 「大学生のうちにやっておきべきこと」とは
――よく言われる「大学生のうちにやっておくべきこと」は何であるとお考えですか?
木暮:社会人になるとどうしてもできなくなるのが、「自由な時間を確保する」ということです。今、皆さんは比較的自由に時間を使うことができる身分だと思います。だからこそ、いろいろなことをやっておいたほうがいいんですね。
でもそんなときによく出るのが「いや、あれもこれもやりたいし、海外にも行きたいのですが、お金がないんです」というフレーズです。私は「お金がない」という理由で、学生の皆さんが「やりたいこと」を止めることには反対です。もしもお金がないのであれば、適切な範囲で親御さんからお金を借りるなどして、やってみたいことやるべきなんです。
なぜならばお金って、後から取り返すことができるんですよ。端的に言ってしまえば、後から頑張って稼げばいいだけの話です。でも皆さんが今ご経験されている「20代で、若さと体力があって、大学生だから自由な時間もあって」という時間は、たとえどんなにお金があったとしても、絶対に二度と取り戻すことはできません。
だからこそ「取り戻せないもの」に集中して、今を謳歌してほしい。もしもお金が足りないのであれば、先ほども申し上げましたが適切な範囲で親御さんからお金を借りるなどして、今の時間を“経験”に変えていってほしいんですね。やりたいことがあるなら、幸いにも今お持ちの時間を利用して、何でもやってみる。それが、「大学生時代にやっておくべきこと」のほぼすべてである――と言ってしまってもいいでしょう。
――冒頭でおっしゃったとおりの「教科書的ではない視点」からの数々の率直なアドバイスを本気で語ってくださり、誠にありがとうございました! 正直、もっともっと木暮さんのお話をお聞きしたいのですが、残念ながら終了時間となってしまいました。
本日いただいた具体的かつ本質的なアドバイスを基に、有意義な就活を進めてまいりたいと思います。本日はありがとうございました!
「よくある就活のお悩み」について木暮さんの思いをたっぷりと伺うことができたと思います。ホテル木暮様は、通年にわたって独自の「職場体験制度」を開催しています。まだまだ木暮さんのお話が聞き足りたいという人は(笑)、同社の採用サイトから職場体験(座談会あり)を是非、お申し込み下さい!
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インタツアー編集部